2026年の敬老の日は、9月21日(月)です。
そしてこの年は、少し特別です。敬老の日(21日・月)と秋分の日(23日・水)に挟まれた22日(火)が「国民の休日」となるため、9月19日から23日までの5連休になります。この並びが揃うのは2015年以来、11年ぶりです。
つまり今年は、多くの人が「実家に帰れる敬老の日」を迎えます。だからこそ、悩む人が増えます。何を贈るか。
柔道整復師として16年間、たくさんの高齢の患者さんの体に触れてきたのに、いざ自分の親のこととなると答えが出ない。3年ほど、同じところをぐるぐる回っていました。
この記事は、その回り道の記録です。結論を先に書くと、答えは「モノ」ではなく「親の一日の中で、面倒になっていることを一つ減らす」でした。
贈り物が難しくなる、本当の理由
理由ははっきりしています。70代・80代の親世代は、生活に必要なモノをすでに持っているからです。
食器は足りている。服も間に合っている。健康食品は、すでに何かしら飲んでいる。趣味の道具は本人がこだわって選びたい。花や食べ物といった「消えもの」が定番として根強いのも、裏を返せば「形の残るものは困らせやすい」と、みんな経験的に知っているからです。
そして親のほうも、たいてい「何もいらないよ」と言います。これは遠慮ではなく、本当に思いつかないことが多い。答えが出ない質問を、こちらが投げているわけです。
3年目に、私は質問の立て方を変えました。
「一日の中で、面倒になっていることは何だろう」
これは施術の現場で毎日やっていたことでした。「どこが痛いですか」と聞くより、「一日のうちで、一番つらい動作はいつですか」と聞いたほうが、はるかに具体的な答えが返ってくる。自分の親に対して、それをやっていなかったのです。
70代の暮らしで、静かに進んでいる2つの変化
聞き取りと観察でわかったのは、大きく2つでした。どちらも、本人はあまり口に出しません。
① 「歩ける」の中身が変わってきている
親は「まだ普通に歩けるよ」と言います。実際、歩けます。でも、よく見ると変わっています。
- 立ち上がるときに、無意識に手をつく回数が増えた
- 買い物の帰り、途中で一度座るようになった
- 「今日は雨だから」と、外出を見送る日が増えた
気のせいではありません。加齢に伴う筋肉量・筋力の低下は「サルコペニア」と呼ばれ、国立長寿医療研究センターによれば、現在は筋肉量の減少そのものより、筋力の低下や、歩行・立ち上がりといった身体機能の低下のほうがより重要と考えられています。
さらに厄介なのが、もう一つの経路です。加齢そのものによる低下だけでなく、使わないことによる低下(廃用性の筋力低下)が重なります。動かない期間が続くと、それ自体が筋力を落とす。落ちるとさらに動かなくなる。この循環に入りやすいのが、まさに70代です。
東京都健康長寿医療センター研究所の調査では、研究所まで自分で歩いて来られるような元気な高齢者に限っても、膝を伸ばす力が弱い人ほど、買い物や外出といった「やや高度な日常行動」に支障が出ている割合が高いことが示されています。この傾向は女性でより顕著だと報告されています。
② お風呂が「楽しみ」から「ひと仕事」に変わってきている
「面倒くさいから、今日はシャワーでいい」
親がこう言うようになったら、それは好みの変化ではなく、負担の変化かもしれません。湯を沸かす、追い焚きを待つ、掃除をする。一人暮らしや二人暮らしになると、この手間が一日の中で相対的に重くなります。
そして、入浴に関しては見過ごせないデータがあります。厚生労働省の人口動態統計をもとにした集計では、溺れて亡くなる65歳以上の高齢者は令和4年の1年間で7,900人、そのうち5,824人が家や居住施設の浴槽で亡くなっています。同じ年の65歳以上の交通事故死亡者数は2,154人であり、浴槽での死亡者数は交通事故の2倍以上という計算になります。
原因として挙げられているのは、暖かい室内と寒い脱衣所・浴室との温度差による急激な血圧の変動、そして熱い湯に長くつかることによる体温上昇での意識障害です。
大事なのは、これが「特別に体の弱い人だけの話ではない」ということ。日本の住宅は断熱性能が高くないものが少なくなく、部屋ごとの温度差は、ごく普通の家で起きています。
お金をかけずに、今日から贈れること
ここからは費用をかけずにできることです。実は、贈り物より先にこちらのほうが効きます。
運動:「時間」ではなく「回数」を置く
「毎日30分歩いてね」は、ほぼ守られません。現役時代、この指導が続いた人をあまり見ていません。代わりに機能するのは、すでにある生活動作にくっつけるやり方です。
- 座る前に3秒:椅子に座るとき、勢いよく落ちずに3秒かけてゆっくり下ろす。太ももの前側が働きます。座る回数だけ、自動的に反復されます
- 歯磨き中に、かかと上げ:洗面台に手を添えて、かかとを上げ下げ。歯磨きが終われば終わりなので、タイマーも不要です
- 玄関で靴下を立って履く:バランスが取れる範囲で。無理なら壁に手をついて構いません
ポイントは新しい時間を作らないこと。新しい習慣は続きませんが、既存の習慣への上乗せは残ります。
入浴:消費者庁が挙げる基本の対策
機器の有無にかかわらず全員に必要な対策です。実家に帰ったら、一緒に確認してください。
- 入浴前に、脱衣所と浴室を暖める(これが最優先)
- 湯温は41度以下、湯につかる時間は10分程度までを目安に
- 浴槽から出るときは、急に立ち上がらない
- 食後すぐ・飲酒後・薬で眠くなっているときの入浴を避ける
- 入浴前に同居者へ一声かける
最後の項目は、離れて暮らしている場合でも応用できます。「お風呂に入る前にLINEを一本送って」と決めておくだけで、状況は変わります。
そして、いちばん効くもの
実家に帰ったら、親の歩き方を後ろから見てください。そして、お風呂場と脱衣所に実際に入ってみてください。
段差はどうか。手すりはあるか。脱衣所は寒くないか。マットは滑らないか。
これは無料です。そして、どんな贈り物よりも情報量があります。今年は5連休です。時間はあります。
それでも続かないときの、道具という選択肢
ここまでを実践して、それでも「運動が続かない」「お風呂が面倒なままだ」という場合に、選択肢として道具があります。順番として、必ず後です。
運動のハードルを下げる:パルストレーナー
ベルト状の電極を両脚に巻いて電気刺激を与え、下半身の筋肉を動かす運動機器です。一般的なEMSがパッドの間の限られた範囲にしか通電しないのに対し、ベルト状の電極を両脚に巻くことで電気が筒状に流れ、面ではなく立体的に下肢の筋肉へ働きかける仕組みになっています。
メーカー公表値では、スクワットモード20分で154回の筋収縮を行う設定です(これは機器が行う筋収縮の回数であり、実際にスクワットを154回行った場合の健康上の結果と同じであることを示すものではありません)。
親世代にとって現実的なのは、次の点です。
- 座ったまま使える。テレビを見ながら、新聞を読みながらで完了します
- 天気に左右されない。雨の日も、猛暑の日も、外出しなくていい
- 20〜30分で終わる。時間が読めるので、生活に組み込みやすい
入浴のハードルを下げる:バスポカ EXeco
浴槽のお湯を24時間ろ過・加温し続ける循環温浴器です。親の暮らしに対して変わるのは、主に「手間」の部分です。
- 沸かす手順が不要になる。入りたいと思ったときに入れます
- 追い焚きの待ち時間がなくなる
- 家族が時間をずらして入っても、湯温が保たれる
- 湯を張り替える頻度が下がるため、掃除の負担が減る
「お風呂が面倒」の中身を分解すると、その多くは入浴そのものではなく、その前後の段取りです。そこが減ると、入浴の回数は戻りやすくなります。
贈り物として考えるときの注意点
正直に書いておきます。この種の機器は、事前に本人の意向を確認せずに贈ると失敗しやすいです。
サプライズで送ると、箱を開けた瞬間に「そんなに老けて見えるのか」と受け取られることがあります。健康関連の贈り物は、こちらの心配がそのまま「あなたはもう弱っている」というメッセージとして伝わってしまう。贈る側の善意と受け取る側の解釈がずれやすい領域です。
有効なのは、先に一緒に体験してもらうことです。「こういうのがあるらしいから、試しに見に行かない?」と誘って、本人が「これならできそう」と言ったものだけを贈る。順番を逆にするだけで、結果はまったく変わります。
まとめ
- 質問を変える。「何が欲しいか」ではなく「何が面倒になっているか」
- まず観察する。歩き方、立ち上がり方、お風呂場と脱衣所の環境。無料で、情報量が最大
- お金をかけずにできることを先に整える。既存の生活動作に運動をくっつける。入浴対策を一緒に確認する
- 道具は最後の選択肢。そして必ず、本人に体験してもらってから
2026年は11年ぶりの5連休です。実家でゆっくり過ごせる年は、そう多くありません。
モノを渡す10分より、一緒にお風呂場を見て回る30分のほうが、たぶん長く効きます。